統合失調症
- 統合失調症(schizophrenia)とは
- 統合失調症の診断(DSM-5)
- 【統合失調症チェック】シュナイダー(Schneider)の一級症状とは?
- 統合失調症によくみられる症状
- 統合失調症の初期症状は
- 統合失調症の原因(統合失調症は遺伝する?)
- 統合失調症で脳が萎縮するってほんと?
- 統合失調症の疫学
- 統合失調症と間違われやすい体の病気は?
- 統合失調症と間違われやすい心の病気は?
- 統合失調症は再発するか
- 統合失調症の長期予後
- 統合失調症の薬以外の治療
- 統合失調症の薬の種類
- 統合失調症の薬の副作用
- 主な定型抗精神病薬(第一世代抗精神病薬)と副作用
- 主な非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)と副作用
- 主な非定型抗精神病薬(第三世代抗精神病薬)と副作用
- 再発予防のためにどうしたらよい?
- 家族など支援者の接し方で注意すべきこと
統合失調症(schizophrenia)とは
統合失調症は約100〜200人に1人の方が罹患される頻度の高い病気で、知覚、思考、感情、意欲など様々な精神機能の障害として現れ、幻覚、妄想、思考の混乱、意欲の低下、ひきこもりなどの症状を認めます。統合失調症の歴史は、精神医学の歴史そのものと行っても過言ではなく、古代ギリシャの時代から様々な治療法が試行されては消えて行きました。英語のschzophreniaの語が「分離する」という意味のschizo-と「精神」を意味するphreniaから構成されていることからわかるように、かつては精神が分裂する病気と考えられ精神分裂病と呼ばれていました(現在はその考え方は否定され、名称も変更されています)。有効な治療法がなかったため、つい数十年前まで患者さんは極めて長期間の入院が強いられてきたのです。ところが、幸い1952年にクロルプロマジン(今でいう商品名コントミン)という抗精神病薬が開発され、その後さらに副作用の少ない次世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬という)がつぎつぎと開発されたことで治療環境が一変し、統合失調症の患者さんが、治癒(正確には寛解)と社会復帰を目指すことができるようになりました。
統合失調症の診断(DSM-5)
- 妄想
- 幻覚
- まとまりのない発語(頻繁な脱線や、支離滅裂な言動)
- ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
- 陰性症状(意欲低下など)
- 以上の5つの症状のうち2つ以上が、おのおの1か月間ほとんどいつも存在すること
- 少なくとも一つの症状は1か2か3あること。
- 意欲低下など前駆期・残遺期の非特異的症状を含めると6か月以上の持続的な徴候があること
- 仕事、対人関係、自己管理などの機能が病前より著しく低下していること
- 活動期の症状と同時に抑うつエピソード、躁病エピソードを発症していない
- 抑うつ、躁病エピソードを認める場合も、その持続時間は、疾病の活動期および残遺期の半分以下である
- 薬物を乱用していない
- 自閉症スペクトラム障害や、小児期発症のコミュニケーション症の既往があれば、原著な幻覚や妄想が、そのほかの必須症状に加え少なくとも1か月存在する
【統合失調症チェック】シュナイダー(Schneider)の一級症状とは?
ドイツのシュナイダー(1887〜1967)は統合失調症に特徴的で、しかもほかの病気ではみられにくい症状を特定しました。
- 考想化声(「自分が考えている事が声になって聞こえる」)
- 話しかけと応答の形の幻聴
- 自分の行動を批評する声の幻聴
- 身体的被影響体験(体が外的に影響を受けていると感じる)
- 思考奪取、そのほかの思考への干渉(「考えが抜き取られてしまう」など)
- 考想伝播(「自分の考えが他者に伝わる」)
- 妄想知覚(自分の知覚が特別な意味付けがされて確信される」)
- 感情、欲動、意志の領域におけるさせられ体験(「他人に〜させらる」)や被影響体験のすべて
これらはシュナイダーの一級症状と呼ばれ、今日まで診断に重視されています。
統合失調症によくみられる症状
本人が感じる症状
- 考えがまとまらない
- イライラする
- 話の内容が他人にうまく伝わらない
- 人の声(会話や悪口など)が聞こえる
- 自分の考えている内容が誰かに伝わっている
- 人の考えが入ってくる
- 誰かに監視されている(盗聴されている、狙われている)
- 命令をされている
- 食べ物に毒が入っている
- 有名人と自分は関係がある
周囲から見た症状
- 部屋に閉じ籠るようになった
- 壁に向かって、独り言を言っている
- 急に大きな声を出す
- 暴れる
- 話が通じない
- 理解不能な行動がある(儀式的な行動など)
統合失調症の初期症状は
統合失調症に特徴的な症状がそろう前に、必ずしも典型的ではない症状が出現する前駆期が認められることが多いといわれています。前駆期の長さは様々で1年未満の方もいれば10年近くの方もいますが、平均して4.8年とされています。前駆期の初期症状として多いのは
- 抑うつ
- 不安
- 強迫
- 落ち着きのなさ
- 思考・集中力の低下
- ひきこもりなど
です。
また中安信夫(1990)は、初回精神病エピソードが出現する前の時期を「初期統合失調症」と述べ、特徴的な初期症状として
- 自生体験:考え、イメージ、記憶などが勝手につぎつぎと浮かんでくる
- 気づき亢進:感覚が過敏となり、物音や、周囲の変化、身体感覚などに気がつく
- 漠とした注察感:常に誰かから見られているような感覚を感じる
- 緊迫困惑気分:何かが差し迫っているような緊迫感を感じる
などを挙げています。
統合失調症の原因
統合失調症の原因は遺伝?
統合失調症の患者を親にもつ子どもの生涯発病率は約10%であり、一般人口の約10倍であることからわかるように、遺伝的素因は発症の脆弱性に関与すると言われています。例えば、しかし、遺伝的に同一である一卵性双生児における発症率が50%であり、100%に達しないという事実は、発症が遺伝だけに規定されず、環境的要因も関わっていることを示しています。研究では、統合失調症の方は、発病前から脳が解剖学的、機能的に変化していると考えられており、幼少期から言語、運動の遅れ、不器用さや社交性の乏しさなどの発達の遅れが確認される頻度が高いとされています。
環境的要因とは
環境的要因とは、感染症、物質使用、大きなライフイベントなど、一般的に心身にかかる様々なストレスの要因が考えられます。そのほか、僅かながら出生時の下記要因も統合失調症の発症リスクを高めると言われています。
- 母体のウイルス(インフルエンザウイルスなど)感染
- 出生児低体重
- 新生児仮死
- 子宮弛緩
- 妊娠糖尿病
- 冬生まれ
- 都会生まれ
脆弱性ストレスモデルとは
遺伝的な脆弱性(統合失調症になりやすい体質)を元来もつ人に、環境的なストレスが加わることで発病するという仮説を、脆弱性ストレスモデルと呼ばれています。
脳で何が起こってる?長年支持されているドパミン仮説とは
さまざまなストレスがきっかけとなって、脳内の神経伝達物質のひとつであるドパミンの過剰分泌などの脳機能の変調をひきおこし、症状が引き起こされるというドパミン仮説が支持されています。ドパミンの脳皮質における過剰分泌は幻覚や、妄想(これらを陽性症状という)を引き起こし、前頭前野の分泌低下が意欲の低下や認知機能低下(これらを陰性症状という)に関与すると言われています。
グルタミン酸仮説とは?
グルタミン酸受容体のひとつであるN-メチル-D-アスパラギン酸(以下NMDAと略)受容体の機能低下により症状が引き起こされるという仮説をグルタミン酸仮説といいます。実際、NMDA受容体の拮抗薬(フェンシクリジンなど)の投与により、統合失調症のような症状が出現することがわかっており、反対にNMDA受容体の神経伝達を促進するグリシンというアミノ酸は精神病症状の改善作用があることが知られています。
統合失調症で脳が萎縮するってほんと?
確かに統合失調症の方では、前頭葉と側頭葉(特に海馬)の体積が小さく、その結果、その周りの側脳室や第3脳室が大きく広がっていることが知られています。これらは、統合失調症の方が生まれ持った脳の特徴でもあり、統合失調症の患者さんの非発病親族にも海馬体積の減少が認められることが報告されていますが、病初期及び、病気が再燃を繰り返すごとに萎縮が進行することがわかっています。
統合失調症の疫学
発生率に男女差は殆どみられません。発症年齢は15歳から35歳が大半で、男性は女性よりも発症が早い傾向にあり、男性の平均発症年齢が21歳(ピークは15〜24歳)であるのに対し、女性の平均発症年齢は27歳(ピークは25〜34歳)となっています。
統合失調症と間違われやすい体の病気は?
- 脳炎
- 神経疾患
- 膠原病
- 内分泌疾患
- 代謝性疾患
- てんかん(特に側頭葉てんかん)
- アルコール性精神病
- ステロイド精神病
- レボドパなどパーキンソン病治療薬による幻覚妄想
- メタンフェタミンなど覚醒剤による幻覚妄想
統合失調症と間違われやすい心の病気は?
妄想性障害
統合失調症と異なり、多くは中年期以降で発症します。基本的には妄想は単一であり、複数である場合にも相互に関連した体系的な内容が長期間持続することが特徴です。妄想に関連する内容以外の行動、会話、感情は保たれるため、社会生活もまずまず維持できることが多いです。明確な幻聴や、顕著な意欲の低下などを認める場合は妄想性障害とは診断されません。
短期精神病性障害(急性一過性精神病性障害)
急性(2週間以内)に幻覚や妄想などの精神病症状が一気に出現し、症状が1か月以内に消失します。1か月以上持続したら統合失調症と再診断されます。
非定型精神病
現在の診断基準には用いられない疾患名ですが、わが国で提唱された疾患概念で便宜的に用いられることがあるので紹介します。急性に発症し、双極性障害にみられるような気分の変動が前景にでながら、活発な幻覚や妄想を伴った錯乱や夢幻様状態が見られます。本疾患概念は、現在の診断基準ではその多くが短期精神病性障害(急性一過性精神病性障害)に含まれると考えられます。エピソードは周期的に繰り返される場合がありますが、予後は一般的に良好です。
うつ病、双極性障害(そううつ病)
うつ病、双極性障害(そううつ病)でも妄想症状を認めることがありますが、それらは通常、気分に一致した内容です。例えばうつ状態に伴う貧困妄想(「お金がない」)、心気妄想(「私は重い病気に違いない」)、そう状態に伴う誇大妄想(「私は神だ」)などです。
統合失調感情障害
統合失調症の症状と気分障害の症状が、共に顕著に存在するものを統合失調感情障害といいます。気分障害の症状は、うつ状態、そう状態、躁うつ混合状態のいずれの場合も有ります。同一の患者さんであっても、別の時期に統合失調症の症状と気分障害の症状が見られる場合には、統合失調感情障害とは診断しません。統合失調感情障害のエピソードを繰り返しており、特に気分障害のエピソードがそう状態である時、再燃をコントロールさえできれば通常完全寛解し、人格水準の低下を引き起こすことは稀です。
統合失調症は再発するか
7割程度の患者さんが5年以内に再発を経験します。とりわけ発症後2年以内に高率におこるので注意が必要です。しかし、病気になってから早期に薬物治療を開始できれば、再発する割合が少なく押さえられることがわかっており、発症1年以降に治療を開始した人は通常7割の再発する割合を2割程度まで下げる事ができると言われています。症状や社会的機能の悪化も発症後数年以内に生じることがほとんどで、発症後数年経つとに安定化することから、2〜5年程度再発予防の目的での治療が必須であるといえます。
統合失調症の長期予後
統合失調症の長期予後は、治療の進歩とともに好転しています。完全寛解の率は未だ厳しく3割程度ですが、軽度の障害を残すもののなんらかの形で社会適応ができている方も合わせると5割程度になります。また、全体の9割の方が一定程度の症状の改善を認めています。厳しい長期予後に落胆されたかもしれませんが、今後も治療は進歩していくので、完全寛解の割合は改善し続けると見込まれます。
統合失調症の薬以外の治療
(※全ての治療が当院で実施できるわけではありません。まずは受診の上ご相談ください。)
支持的精神療法
統合失調症の治療においては、患者さんが安心できる治療者-患者関係を築くことがまず最も重要です。なぜなら統合失調症の方は、慢性的に強い不安や恐怖を感じるなかで生活をしており、外界は敵意に満ちた脅威として体験されます。治療者は率直で誠実な態度を心がけ、事実関係の確認がとれない事項については、安易な否定や肯定を避けて中立的な態度をとり、不完全ながらも患者さんを理解しようと努力している味方であると認識していただきます。よい治療関係を築くことで、病識が十分でなくても納得して通院をつづけていただけるので、対処法を一緒に考えていけますし、寛解後も再発のリスクを下げることができます。
心理教育
患者さんや、そのご家族に疾患についての知識を説明させていただくことで、理解を深めていただき、病気に対しての対処能力を高めていただきます。例えばご本人、ご家族が病気を理解して、症状が再燃する兆候を早期に掴むことで、症状が悪くならないうちに対処し重症化することを防ぐことができるようになります。
作業療法
作業療法は、薬物療法がない時代から存在した治療法です。活発な幻覚や妄想が落ち着いた安定期に行われます。作業活動により、生活リズムの回復、活動性の向上、集団の中での作業を通した他者との関わりの練習をしていきます。
社会生活技能訓練(ソーシャルスキルトレーニング;SST)
社会生活技能訓練とは、社会的学習理論に基づいて、デイケアなどの場で患者にとって困難となっている対人行動などの、社会的な生活技能の再学習を行うものです。これも活発な幻覚や妄想が落ち着いた安定期に行われます。機能評価に基づき、下記手法を組み合わせて行います。統合失調症の再発率を下げると言われています。
- 教示:言葉がけや動作、ふるまいについて、具体的に教えることです。
- モデリング:言葉かけや動作、ふるまいの見本をみせ、真似をしてもらうことです。
- ロールリハーサル(行動リハーサル):実際の状況を想定して、模擬的に言葉かけや動作、ふるまいの練習を行います。
- フィードバック:実行された言葉がけや動作、ふるまいに対して適切な場合は褒め、不適切な場合はその旨と理由を説明します。
統合失調症の薬の種類
統合失調症の薬を抗精神病薬といいます。当初からある抗精神病薬は、フェノチアジン誘導体、ブチロフェノン誘導体などのドパミンD2受容体遮断を主な薬理作用とする者で定型抗精神病薬(第一世代抗精神病薬)と呼ばれます。しかし、定型抗精神病薬の多くは残念ながら下記の錐体外路症状と呼ばれる副作用などが顕著でした。しかし、1996年にわが国に導入されたリスペリドン(商品名リスパダール)を皮切りに続々と開発された薬は、ドパミンD2受容体のみならず、セロトニン2A受容体など他の受容体にも遮断作用を持ち、錐体外路症状などの副作用が軽減され、内服を続けやすくなりました。多くの研究で発病から(薬物)治療までの期間をDUP(duration of untreated psychosis:DUP)が長いほど病気の経過が悪いことが明らかになり、早期介入の重要性が再認識されています。
統合失調症の薬の副作用
抗精神病薬のこわーいイメージはおもに錐体外路症状が原因!
錐体外路症状とは、抗精神病薬のドパミンD2受容体遮断作用が、脳の黒質線条体という部位で過剰に起こると、まるでパーキンソン病やその関連疾患のような症状のことで、定型抗精神病薬で顕著です。例えば下記の症状があります。
- 手が震える(震戦)
- 筋肉がこわばり動きが悪くなる(筋固縮、筋強剛)
- 動作が減る、ゆっくりになる(寡動、動作緩慢)
- 急に顔をしかめる、首を回す(舞踏運動)
- 表情が少なくなる(仮面様顔貌)
- 歩幅が狭くなる(小刻み歩行)
- 首、四肢体幹をゆっくりとねじる、(ジストニア)
- 舌を出す
- 眼球が意図せず上転する
- 足がソワソワして歩き回る(アカシジア)
- 口をもぐもぐする(ジスキネジア)
- よだれが出てしまう
PET検査を用いた研究によると、脳内のドパミン受容体占拠率が70%以上で治療的効果がみられますが、80%以上に及ぶと錐体外路系副作用が発現するとされています。ですのでその間である70〜80%の占拠率になる薬の用量を目指した薬の絶妙な調節が求められ、その用量は人によって違うので、調節する途中で上記の錐体外路症状が一時的に出てしまうことが残念ながらあります。しかしほとんどの方は薬を減らすと錐体外路症状は消失しますのでご安心ください。また、近年開発された第二世代以降の抗精神病薬は、セロトニン(5-HT2A)受容体の遮断作用を併せ持つことで、抗ドパミンD2受容体遮断作用により引き起こされる錐体外路症状を緩和できるようになりました。その結果、錐体外路症状のこわ〜い副作用の頻度は劇的に減ったのです。(一時的に出ることはまだまだありますが。)
頻度は非常に少ないが起こったら大変!悪性症候群
悪性症候群は、抗精神病薬を内服している方の0.2%程度に起こる非常に頻度がですが、起こったらすぐに対処する必要がある副作用です。症状としては、高熱、発汗、震え、意識障害、とても強い筋硬直が起きます。血液検査をすると筋細胞が壊されて筋酵素CKの著明な上昇が起こります。また腎不全を合併することもあり、ミオグロビンという物質が尿に出てくると茶褐色の尿がみられます。悪性症候群を疑う症状が出たら、すぐに医療機関に相談しましょう。悪性症候群の場合、まず抗精神病薬を全て中止します。また脱水になると全身状態が悪化しやすいため、発汗が多い場合は速やかに水分摂取を行います。次のステップとして、筋弛緩薬のダントロレン、ドパミン作動性のブロモクリプチン、アマンタジンなどの薬を使用することもあります。
主な定型抗精神病薬(第一世代抗精神病薬)と副作用
クロルプロマジン(商品名ウインタミン、コントミン)
世界で最初に開発された抗精神病薬で、フェノチアジン系に分類されます。幻覚妄想を抑える作用を有するものの弱いため、現在は鎮静効果を期待して、極めて興奮が著しい場合、または難治性の不眠の場合などに用いられる程度で使用頻度は減っているお薬です。副作用は錐体外路症状の他、口の渇き、便秘、排尿困難感、眠気、倦怠感などがあります。
レボメプロマジン(商品名ヒルナミン、レボトミン)
フェノチアジン系の抗精神病薬で、ドーパミン(D2)受容体の他、アドレナリン(α1)受容体、ムスカリン(M1)受容体、ヒスタミン(H1)受容体など多様な受容体の遮断作用を有します。幻覚妄想を抑える作用は弱いため、鎮静作用を期待して、興奮が著しい場合や、易怒性が顕著な場合などに用いられることが多いです。副作用は錐体外路症状の他、高プロラクチン血症に伴う月経異常、乳汁分泌、射精障害、体重増加、血糖上昇などがあります。
ハロペリドール(商品名セレネース、リントン、ハロマンス)
ブチロフェノン系の抗精神病薬で、統合失調症、躁病に適応があります。ドーパミン受容体に対する親和性が高いため、強い抗幻覚妄想作用があります。非定型抗精神病薬が開発された今日では使用頻度は減っているものの、統合失調症に伴う難治性の幻覚妄想症状や、強い興奮に対して現在でも頻繁に利用されています。副作用は、錐体外路症状の他、不眠、焦燥感を認めます。商品名ハロマンスはハロペリドールの持効性注射(LAI)で、4週に1度の頻度での注射で効果が持続します。
スルピリド(商品名ドグマチール)
当初は胃薬として開発されたベンザミド系の抗精神病薬です。胃・十二指腸潰瘍のほか、統合失調症、うつ病、うつ状態、に適用があり、50mg〜200mgの低用量では抗うつ作用、高用量では抗精神病作用を有する珍しい薬です。前述の錐体外路症状が比較的少ない上、眠気、倦怠感が生じにくいなど副作用が少ないため、(腎機能障害のない)高齢者に対しても少量用いられます。また心因性で吐き気がある方、食欲が低下している方にも用いられる場合があります。副作用は高プロラクチン血症に伴う月経異常、乳汁分泌、射精障害、肝機能障害、むくみなどがあります。
チアプリド(商品名グラマリール)
ベンザミド系の抗精神病薬で、ドーパミン受容体のうち、D2受容体のみならず、D3、 D4受容体に親和性を持ちます。現在は鎮静作用を期待して用いられることが多いです。作用時間が適度に短く、肝臓への負荷が少ないことから、統合失調症に対してというよりは、脳梗塞後遺症に伴う攻撃性や、認知症やせん妄の精神運動興奮などに対照的に用いられることが多いです。副作用は錐体外路症状の他、眠気、ふらつきなどを認めます。
主な非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)と副作用
ゾテピン(商品名ロドピン)
チエピン系の抗精神病薬であり、ドーパミンD2受容体遮断作用の他、セロトニン(5-HT2A)受容体遮断作用をもちます。強い鎮静作用があるので、興奮が著しい統合失調症などに対して用いられることがあります。副作用は錐体外路症状、眠気、倦怠感、ふらつきなどを認めます。
リスペリドン(商品名リスパダール、リスパダールコンスタ)
ドーパミン(D2)受容体拮抗作用と、セロトニン(5-HT2A)受容体拮抗作用を持つのでセロトニン・ドーパミン・アンタゴニスト(SDA)と呼ばれており、代表的な非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)で統合失調症に非常によく用いられます。副作用は(弱いながらも)錐体外路症状を認める他、高プロラクチン血症に伴う月経異常、乳汁分泌、射精障害、食欲不振、吐き気、眠気、不眠、不安などを認めます。商品名リスパダールコンスタはリスペリドンの持効性注射(LAI)で、2週に1度の頻度での注射で効果が持続します。
パリペリドン(商品名インヴェガ、ゼプリオン)
パリペリドンは上述のリスペリドンの代謝産物です。インヴェガは徐放剤(徐々に溶け出す薬)となっており、効果発現がゆっくりである代わりに、体内の薬物血中濃度が安定して保たれるため、錐体外路症状や起立性低血圧の頻度は低くなっています。副作用は(弱いながらも)錐体外路症状を認める他、高プロラクチン血症に伴う月経異常、乳汁分泌、射精障害、及便秘などです。商品名ゼプリオンはパリペリドンの持効性注射(LAI)で、4週に1度の頻度での注射で効果が持続します。
ペロスピロン(商品名ルーラン)
ドーパミン(D2)受容体と、セロトニン(5-HT2A)受容体の拮抗作用を持つセロトニン・ドーパミン・アンタゴニスト(SDA)の一つです。効果は全体的にマイルドで、錐体外路症状や、高プロラクチン血症に伴う乳汁分泌、月経異常などの副作用が少ないです。また、セロトニン(5-HT1A)受容体に対する刺激作用も比較的強いことから、不安、抑うつに効果が期待される。血中半減期が短い事から、統合失調症以外でも高齢者の幻覚妄想などに用いられることがあります。
ブロナンセリン(商品名ロナセン)
日本で開発された抗精神病薬で、ドーパミン(D2)受容体のみならずセロトニン(5-HT2A)受容体拮抗作用を持つセロトニン・ドーパミン・アンタゴニスト(SDA)の一つです。特にドーパミン(D2)受容体の拮抗作用が強いことから、抗幻覚妄想作用は強い一方で、それ以外の受容体に対する親和性が低いため、過鎮静、血糖、血圧上昇などの副作用が少ないことが特長です。副作用は錐体外路症状、吐き気、便秘などを認めます。
オランザピン(商品名ジプレキサ)
オランザピンは、ドーパミン(D1,D2,D3,D4,D5)受容体、セロトニン(5-HT2A、5-HT2C)受容体、ムスカリン受容体(M1,M2,M3,M4,M5)受容体、α1受容体、H1受容体などの多様な受容体に対する遮断作用を示すので、多元受容体作用抗精神病薬(MALTA)と呼ばれる分類に属する抗精神病薬で、統合失調症のみならず、双極性障害における躁状態、うつ状態にも適応をとっており、有効なお薬で非常によく用いられます。錐体外路症状や、高プロラクチン血症などの副作用が少ない一方で、高血糖、体重増加、肝機能障害などの副作用を認めます。糖尿病の方(及び糖尿病の既往のある方)には禁忌となっています。
アセナピン(商品名シクレスト)
ドーパミン受容体(D2,D3,D4)、セロトニン受容体(5-HT2A,5-HT2c,5-HT7)、アドレナリン受容体(α1、α2)、ヒスタミン受容体(H1)など多数の受容体に対する拮抗作用を有し、多元受容体作用抗精神病薬(MALTA)に分類される抗精神病薬です。ただし、セロトニン1A受容体には作動性に働区ため、意欲低下、うつ、不安などの症状を改善する可能性があるといわれています。わが国では統合失調症にのみ適応が承認されていますが、そう症状にも有効であることがわかっており、欧米では双極性障害のそう状態にも適応を有しています。副作用は眠気、めまい、口の感覚鈍麻、錐体外路症状などがあります。この薬は、抗精神病薬の中で唯一の舌下錠であり、口腔粘膜から吸収されるため、服用時は飲み込まず舌下に留置する必要があります。服用後、最低10分間は飲食を控える必要があります。
クエチアピン(商品名セロクエル、ビプレッソ)
ドーパミン(D2),セロトニン(5-HT2)受容体に強く拮抗するジベンゾジアゼピン系誘導体で、その他にも多様な受容体に拮抗作用を示すので多元受容体作用抗精神病薬(MALTA)に分類される抗精神病薬です。セロクエルは統合失調症に適用がある他、その他に双極性障害のうつ状態にも有効であることがわかっています。錐体外路症状や高プロラクチン血症に伴う乳汁分泌、月経異常などの副作用が少なく、特にセロクエルは作用時間が短いため、統合失調症に用いられるよりは、非特異的な幻覚妄想や不安、焦燥、不眠などに対して作用時間を短く効かせたい場面で用いられることが多いです。副作用は眠気、倦怠感、肝機能上昇、不眠、血糖上昇などがあり、糖尿病の方には禁忌となっています。ビプレッソは、クエチアピンの作用時間を長くした徐放剤で、双極性障害のうつ症状の改善に有効です。
クロザピン(商品名クロザリル)
ドーパミン(D4),セロトニン(5-HT2A),ムスカリン(M1),アドレナリン(α1),ヒスタミン(H1)受容体に強く拮抗するジベンゾジアゼピン系化合物で、多元受容体作用抗精神病薬(MALTA)に分類される抗精神病薬です。一方でドーパミンD2受容体に対する親和性は極めて低い事から、D2受容体遮断に依存しない中脳辺縁系ドーパミン神経系に対する選択的抑制が考えられます。また、前頭皮質5-HT2A受容体阻害は意欲低下などの陰性症状を改善させます。本剤は、現存する最強の抗精神病薬で、治療抵抗性統合失調症の30%を改善させますが、一方で1%程度の頻度で起こる無顆粒球症をはじめ、心筋炎、耐糖能異常など、重篤な副作用のリスクがあるため、1種類以上の抗精神病薬を含む2種類以上の抗精神病薬を十分量一定期間(クロルプロマジン換算600mg/日以上を4週間以上)使用し十分な効果を認めなかった場合、または副作用で使用できなかった場合にのみ、ごく限られた医療機関(主に血液内科医のいる大病院)で使用されます。定期的に採血を行って厳密なプロトコルに則り、白血球や好中球のモニタリングを行い、本薬剤使用中に白血球3000未満または好中球1500未満となった患者には直ちに投与を中止します。その他の副作用に頻脈、発熱、高血糖、白血球増加、口渇、発汗、起立性低血圧、腸閉塞、よだれがあります。
主な非定型抗精神病薬(第三世代抗精神病薬)と副作用
アリピプラゾール(商品名エビリファイ、エビリファイ持続性水懸筋注用)
アリピプラゾールは、ドーパミン(D2)受容体の部分作動薬(パーシャルアゴニスト)であり、ドーパミン作動性神経伝達が過剰の場合にはD2受容体アンタゴニスト(拮抗剤)として作用し、低下している場合にはD2受容体アゴニスト(作動剤)として作用するというユニークなお薬です。ドーパミンのシステムを安定化させるので、ドーパミン・システム・スタビライザーとも呼ばれ、幻覚妄想などの陽性症状のみならず、意欲低下などの陰性症状、不安、抑うつ症状にも効果が認められており、統合失調症の他、双極性障害のそう状態、うつ病・うつ状態、小児期の自閉スペクトラム症の易刺激性にも適応があり、汎用性の高い薬です。錐体外路症状が非常に少なく、鎮静作用による眠気、倦怠感が少なく、血糖上昇や高プロラクチン血症に伴う乳汁分泌、月経異常などの副作用が少ないため広く第一選択薬として用いられてきました。生じうる副作用としては上述のアカシジア、肝機能上昇、CK上昇、不眠などがあります。エビリファイ持続性水懸筋注用は、エビリファイの持効性注射で4週に1度の頻度での注射で効果が持続します。
ブレクスピプラゾール(商品名レキサルティ)
ドパミンD2受容体とセロトニン5-HT1A受容体の部分作動薬(パーシャルアゴニスト)であり、これらの神経伝達が過剰な場合にはアンタゴニスト(拮抗剤)として働き、低下している場合にはアゴニスト(作動剤)として働くお薬でセロトニン‐ドパミン・アクティビティ モジュレーター(SDAM)と呼ばれ、アリピプラゾールの後に開発された新しいお薬で、統合失調症にのみ適応が承認されています。セロトニン(5-HT2A)受容体に対しては拮抗的に働き陰性症状を改善させると考えられています。錐体外路症状や、鎮静作用による眠気、倦怠感、血糖上昇や高プロラクチン血性に伴う乳汁分泌、月経異常などの副作用がアリピプラゾール同様比較的少ないことが特長です。
ルラシドン(商品名ラツーダ)
ドパミンD2受容体とセロトニン5-H2A受容体、セロトニン5-HT7受容体に拮抗的に働く一方で、セロトニン5-HT1A受容体の部分作動薬(パーシャルアゴニスト)として働きます。統合失調症の他、双極性障害のうつ症状に適応をとっております。統合失調症の抑うつ症状に有効だという報告がある他、双極性障害のうつ症状に高い有効性を示す一方で錐体外路症状や体重増加、血糖上昇などの副作用が他のお薬に比べ少ない特長があります。頻度の高い副作用は、アカシジア、眠気などです。
再発予防のためにどうしたらよい?
再発にもっとも大きく影響する要因は、お薬(抗精神病薬)を継続できているかどうかです。初回の寛解後1年間の再発率は、内服が継続している人は2割程度ですが、内服を中断された場合は6割程度まであがります。副作用があって内服の継続が困難な場合でも、自己判断での中断は避けていただき主治医に相談してください。
家族など支援者の接し方で注意すべきこと
批判、敵意、過度な干渉など、家族の感情の表出espressed emotion EE(及び巻き込み)が高いことをhigh EEとよびます。high EEの対応を本人にしてしまうと、統合失調症の再発率を高める事がわかっているので注意が必要です。例えば、「どうしてわかってくれないの」「あなたが悪い」「私が全部やってあげないといけない」などと考え、ついそのような言葉かけや態度を本人にしてしまいませんか。病識が十分でない患者さんと接するのは非常にしんどいことですので、ご家族だけで支えようとすると次第に疲弊して燃え尽きてしまい、多くの方が次第にhigh EEな対応をとってしまうのは無理からぬことです。再発の予防のためにご家族だけで支えようとするのではなく医療・福祉の 専門家の力もぜひ借りていただき、余裕をもった支援の方法を考えていきましょう。