コロナと睡眠障害
新型コロナウイルス(COVID-19)の大流行によって、多くの人が外出制限を強いられ、在宅ワークやオンライン授業など新しい生活様式の適応を強いられていますが、その急激な変化は不安や抑うつの原因となるだけでなく、不眠などの睡眠の問題を招いています。本ページでは、新型コロナウイルス流行による外出機会(活動量)の減少と睡眠問題について扱い、実践的な対処法について考えたいと思います。
新型コロナウイルスの外出制限によって起こること
- 日光に当たる時間の減少
- 運動不足と体重増加
- 定着していた生活習慣と仕事のスケジュールの乱れ
- 仕事(学業)の継続や、経済的問題のストレス
- 外出して友達と会って話したり、外食をしたり、買い物やスポーツを楽しむ、などの趣味や娯楽の機会の減少
- 独居者や高齢者の孤独感の増大
- 家族関係に既に問題があった場合、長時間一緒に過ごさねばならないストレスの蓄積
これらのネガティブな変化は、ボディブローのように睡眠の質を悪化させます。
特に睡眠障害のリスクが高い人とは
- 独居で孤独感を感じている人
- 自分や家族が仕事(学業)に打撃を受けた人
- 女性(特に妊娠中、および生後数年の子供を持つ母親)
女性はもともと男性と比較して不眠など睡眠の問題を来しやすいことがわかっています。さらに、コロナによる生活様式の変化の悪影響は、依然として日本社会において家事や育児、介護を主に担っている女性の方が大きいと考えられます。
睡眠不足になるとコロナにかかりやすい?【睡眠と免疫の調査】
Kripkeによる100万人以上を対象とした睡眠時間と健康被害のリスクに関する追跡調査では、成人で睡眠時間が6.5〜8時間が最も健康被害が少ないグループとされています。睡眠時間にこだわりすぎてはいけませんが、睡眠不足は免疫力(自然免疫)を低下させます。ある研究では、平均睡眠時間が7時間未満の成人は、8時間以上の成人に比べて約3倍風邪に罹患しやすいことがわかっています。コロナウイルスはもともと風邪のウイルスですから、十分な質の良い睡眠は新型コロナウイルス感染予防に有効であることが推測されます。また余談ですが、睡眠不足による自然免疫の低下はがんの発症リスクを増加させることも議論されており、2008年に東北大学のグループが発表した研究では、40〜79歳の日本人女性23995人を8年間追跡したところ、平均睡眠時間7〜8時間のグループを基準とすると、6時間以下のグループは乳がんの発症リスクが1.62倍高くなっていました。また同様に日本人男性23995人を7年間追跡したところ、前立腺癌のリスクが2.08倍高くなっていたことがわかっています。
Q:成人は何時間眠ればよい?
A:上記のような様々な睡眠に関する研究報告を概観すると、成人の大多数の健康にとって適切な睡眠時間は7〜8時間前後と考えられます。
睡眠障害の対処法
- 就寝時刻と起床時刻を一定にしましょう
- 午前中に光を浴びましょう
- 定期的な運動を日中に行いましょう
- 日記を書くなど、ストレスを振り返る時間を短い時間(15分程度)作りましょう
- SNS、ZOOMなどを利用して家族や友人と交流しましょう
社会的な関わりは、オキシトシンというホルモンの分泌を増やしストレスを軽減します。(但し、SNSのやりすぎには注意。)
- ワイドショーを見るのをやめましょう(コロナウイルスに関するニュースに触れすぎないようにしましょう)
- ベッドでは寝るとき以外は使用しないようにしましょう。
- ベッドにスマホなど電子機器は持ち込まないようにしましょう
- 寝る前には読書やヨガなどリラックスできる活動を取り入れましょう
- ねる2時間前までに食事を済ませましょう。
育児をしている家庭では
- 家族が協力して育児に関与しましょう。
- 子どもの規則正しい睡眠時間を維持しましょう(そのために子どもに運動をさせましょう。)
- 子ども部屋を快適に保つことを心がけましょう(温度は19℃前後で、夜は明かりをつけ過ぎないようにしょう。)
- 子どもだけでなく自分が楽しめる活動も少しは持ちましょう。
- 子どもとの添い寝をやめることを検討しても良いかもしれません。
これらの対処法をしてもなお新型コロナウイルスによる睡眠の問題が改善しない場合は、治療が必要なうつや不安を抱えていらっしゃる可能性があります。お気軽に当院にご相談ください。当院では「睡眠薬を使いたくない。」など、ご本人の希望を尊重した治療を行います。
本ページの参考文献
- Kripke DF, et al. : Arch Gen Psychiatry 2002 ; 59 : 131-136
- Kakizaki M, et al. : Br J Cancer 2008 ; 99 : 1502-1505
- Altena et al.,2020, J Sleep Res, e13052