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パニック障害(パニック症)

パニック障害(パニック症)の診断(DSM-5)

パニック障害とは、突然に強い恐怖が襲ってくるパニック発作と、発作が反復することから生じる生活機能の障害が特徴です。パニック発作は危険・破滅が迫っているという強い恐怖の感覚と、自律神経系の過剰な興奮による動悸、息切れ、めまいなど多彩な身体症状と、状況にそぐわない死の恐怖など、認知面の歪みを伴い、数分以内にピークに達し、通常は30分から45分程度持続します。パニック発作はうつ病や双極性障害(そううつ病)、統合失調症など多彩な病気で認めますが、パニック障害は発作が前兆なく思いもかけないときに起き、それが反復することが特徴です。発作が繰り返されると、また発作が起きるのではないか、コントロールを失うのではないか、心臓発作をおこすのではないか、など発作の結果を心配するようになります(予期不安)。また、発作に関連して著しく生活にきたすような行動の不適応的変化が生じます(例:パニック発作を回避しようとして、運動や初めての状況を避けるなど)。発作が反復する結果生じるこれらの症状はいずれも、家庭生活や職業上の機能を著しく障害し、生活の質を低下させます。

パニック障害の診断(DSM-5)は、以下の1から13の症状のうち4つ以上が起こることが必要です。

パニック障害(パニック症)の症状

  1. 動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身震いまたは震え
  4. 息切れ感または息苦しさ
  5. 窒息感
  6. 胸痛または胸部の不快感
  7. 嘔気または腹部の不快感
  8. めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
  9. 寒気または熱感
  10. 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
  11. 現実感消失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
  12. 抑制力を失うまたはどうかなってしまうことに対する恐怖
  13. 死ぬことに対する恐怖

併せて、1か月以上続く上記の予期不安もしくは不適応的変化(または両方)があります。

パニック障害(パニック症)の疫学

1年有病率は3〜4%と決して稀な病気ではありません。男女比は1対2〜3で、女性に多い病気です。典型的な発症年齢は20代前半であり、小児期や40代以降の発症はまれです。通常は症状の増悪と軽快を繰り返し慢性的な経過をとります。加齢とともに症状は少しずつ落ち着くことが多く、65歳以上になると有病率は1%以下になります。治療後6〜10年で約30%は完治し、40〜50%は改善し、20〜30%は不変か若干悪化しています。広場恐怖など、他の不安障害の合併が多くですが、他の不安障害や、うつ病、物質依存(アルコール依存など)の合併があると経過が悪い傾向にあります。

パニック障害(パニック症)を公表した芸能人

パニック障害を公表した芸能人によって、パニック障害という病気が広く知られるようになりました。

King & Prince 岩橋玄樹さん、KinKi Kids堂本剛さん、美容家 IKKOさん、俳優 星野源さん、女優 大場久美子さんなど

パニック障害(パニック症)の原因

パニック障害の原因は脳の扁桃体の過活動にあると言われています。扁桃体とは情動(感情)反応に主要な役割を担う原始的な脳であり、ヒトという生物の生存のために、太古より非常に重要な役割を担ってきました。例えば、あなたが森を歩いていて見たことのない色鮮やかな大ヘビに出会ったとしましょう。あなたはそのヘビが安全なのか、危険なのか十分な情報を持ち合わせていませんが、のんびり観察していたらヘビに襲われて危険な目にあうかもしれません。扁桃体はその時、不快な強い情動(感情)反応を引き起こし、あなたは瞬時に闘争(または逃走)することで生存を図るのです。扁桃体が私たちにとって非常に重要な脳であることがご理解いただけたでしょうか。パニック障害の方は、この生存のために必要な扁桃体の反応において、ブレーキの回路(前頭前野もしくは前部帯状回からの抑制系ニューロン)が十分に効かなくなった結果起こると考えられています。

パニック障害(パニック症)と間違われやすい病気

以下のような身体疾患を除外するために血液検査など身体的検査を行う場合があります。

甲状腺機能亢進症

バセドウ病などの原因によって甲状腺ホルモンが過剰分泌された結果、身体的に交感神経活動の亢進状態が起き、気分の変動(高揚することが多い)が起きます。また、甲状腺機能亢進症の方に、強いストレスが加わると甲状腺クリーゼという多臓器不全の状態になり、高熱や頻脈、発汗増加などをきたします。

副腎髄質腫瘍(褐色細胞腫)

副腎髄質から急激なカテコラミンの分泌が起きた時に、顕著な高血圧、頭痛、吐き気、嘔吐、動悸、発汗、強い不安などの症状を認めます。

物質使用障害(薬物乱用など)

中枢神経刺激薬の中毒(コカイン・アンフェタミン・カフェイン)、または大麻や中枢神経抑制薬(アルコール、バルビツール酸系薬剤)からの離脱はパニック発作を引き起こします。

パニック障害(パニック症)の治療

(※全ての治療が当院で実施できるわけではありません。まずは受診の上ご相談ください。)

まず、睡眠時間を確保し睡眠の質を改善すること、バランスのカフェイン、アルコール、ニコチンの摂取を避けるなどの生活指導を行います。軽症の場合、認知行動療法や自律訓練法など心理療法が有効な場合があります。中等度以上の場合、患者さんの同意が得られたら薬物治療を行います。当院では、同意が得られない場合薬物治療を行いませんのでご安心ください。但し、中等度以上のパニック障害の場合、ご本人の苦痛が極めて強く、実際は薬物治療を希望される場合が多いです。

呼吸コントロール法

①中等量の息を吸って、息を止めて、6秒数えます。

②6秒たったら、ゆっくり息を吐き出します。その時緊張も吐き出すようにしましょう。

③次に3秒吸って、3秒吐くサイクルの呼吸を意識して1分間繰り返しましょう。(呼気はもう少し長くても可)

④1分経ったら、再び6秒息をとめましょう。

漸進的筋弛緩法

米国の医師のEdmund Jacobsonによって開発されたリラクゼーション法です。筋肉は緊張させてから力を抜くことで脱力しやすくなるためこれを利用し、特定の筋肉を意図的に強く緊張させ、その後一気に力を抜いて筋肉が緩む感覚を味わうことで、緊張状態からリラックスさせる方法を体感的に習得する方法です。

①リラックスできる環境を準備します。部屋の明かりは薄暗くし、アロマやヒーリングミュージックなどをかけてもよいかもしれません。寝転んでも、椅子に座っても構いません

②まずは腹式呼吸で呼吸を行いましょう。おへその下あたりに手をあて、息をゆっくり吐き切り、その後お腹を膨らますように鼻から息を吸いこみます。これを数回繰り返します。

③片手から漸進的筋弛緩法をはじめます。親指を中にいれてこぶしを握ります。この時も呼吸を意識してください。息を吸いながら力を入れ、吐くときに力を抜きましょう力を抜くときに、筋肉が緩んで緊張がほどけていく感覚をゆっくりと感じてください。これを数回繰り返します。

⑤手が終わったら、腕(力コブを作る)、肩(肩をすぼめる)、背中(肩甲骨をよせる)、首(左右にひねる)、顔(全体をすぼめる)、お腹(手を当てて押し返す)、太もも(足を延ばす)、足(そらす)とすすめていきます。

⑥最後に全身をチェックして、緊張が残っていないかを確認します

パニック障害(パニック症)の薬の種類

パニック障害の薬物治療の第一選択はSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬として使われる薬です。SSRIは即効性に欠け、有効用量を飲み始めてから効果が出てくるまでに少なくとも2週間から3週間(場合によっては6週間)を要します。それを聞くと即効性のある抗不安薬の方が優れているようにおもわれるかもしれませんが、SSRIは効き始めると十分に効果が持続し、依存性も低いため第一選択として推奨されています。SSRIの副作用として最も多いのは吐き気、下痢などの消化器症状になります。SSRIで効果不十分な場合は、クロナゼパムによる増強療法を行うと効果が早く現れるかもしれないというエビデンスがあります。

パニック障害(パニック症)でよく用いられるSSRI

セルトラリン(商品名ジェイゾロフト)

薬物相互作用が少なく、段階的な用量調整が可能で、用法も1日1回ですむことからよく用いられています。日本ではパニック障害の他、うつ病、うつ状態、外傷後ストレス障害(PTSD)に適応があり、海外では強迫性障害、月経前気分障害の治療薬としても使用されています。主な副作用は、吐き気、眠気、口の乾き、頭痛、下痢、めまいがあります。パニック障害に対しては、抗うつ薬治療の用量の下限付近で有効となることが多いです。効果不十分の場合に、高用量投与で薬効が出てくる場合がります。

パロキセチン(商品名パキシル)

パニック障害の他、うつ病、うつ状態、強迫性障害、社会不安障害、外傷後ストレス障害などに広く使われています。パニック障害に対しては高用量の投与が必要になることが多いです。副作用は吐き気、眠気、口の乾き、めまい、便秘などがあります。急に中断するとめまい、知覚障害、睡眠障害、不安、焦燥感、震え、発汗、頭痛、下痢などの離脱症状が出現することがあります(他のSSRIでも起こりえるが、頻度がやや高い)。

薬(SSRI)は飲み始めたらずっとやめられないの?

症状が改善しても少なくとも半年は薬物治療を継続すべきであると言われています。十分に症状が改善した期間があって薬を中止しても、安定した状態が続く患者は残念ながら半数未満と言われています。完治率が低いのはパニック障害の原因は脳の性質によるものだからと思われます。しかし、年齢とともに症状が落ち着いていくケースは多く、症状の激しさはその時のストレスとも関係しています。当院では患者さんが希望される場合には、段階的に減薬に取り組ませていただきます。

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