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睡眠薬のギモン(歴史から学ぶ)

睡眠薬は安全?

質問の答えは結論からいうと「睡眠薬はとても危険だったが、時代とともに少しずつ安全になってきた」になります。

「一度飲み始めるとやめられなくなるのでは」「薬の量が増えていくのでは」「ボケてしまうのでは」など睡眠薬に対して恐怖を感じる方は多いと思われます。

もちろん今でも完全に安全な薬はありませんが、時代とともに睡眠薬の安全性はどんどん向上しているのも事実です。ここでは睡眠薬の歴史を振り返ってみたいと思います。

睡眠薬の歴史

1920年代〜1950年代 バルビツール酸系睡眠薬の時代

は睡眠薬といえばバルビツール酸系(及び非バルビツール酸系)の睡眠薬でした。バルビツール酸系の睡眠薬は、GABA受容体に結合し塩素イオンチャネルの開口回数を延長することによりGABAの薬理効果を増強することで催眠作用を引き起こします。しかし、バルビツール酸系の睡眠薬は

  • 依存性、耐性(飲んでいくうちに効かなくなり薬の量が増えていく)が強く乱用に陥る
  • 過量服薬で呼吸抑制に陥り、簡単に死んでしまう
  • 薬を急にやめると、振戦せん妄と呼ばれる意識障害となる(アルコールの離脱症状と同様)
  • ビタミンB6やビタミンB2の吸収や作用を阻害するため、常用するとビタミン欠乏症にみまわれ、結膜炎や皮膚炎を発症する

などの問題がありました。1950年代までは世界中で処方箋なしでこのような薬が買えましたが、マリリン・モンローや芥川龍之介などのたくさんの有名人がこのような睡眠薬で自殺を遂げ、1956年にWHOから勧告があり、処方箋なしではこのような薬は入手できなくなりました。

1960年代〜2010年代 ベンゾジアゼピン系睡眠薬の時代

1960年代にベンゾジアゼピン系の睡眠薬が登場しました。バルビツール酸系と同様にGABA受容体に作用し催眠作用がありますが、バルビツール酸系と比較すると耐性、依存性を形成しにくく血中濃度の安全性が広いことから、睡眠薬はバルビツール酸系からベンゾジアゼピン系に急速に置き換わっていきました。

  • ベンゾジアゼピン系単独で過量服薬が行われても、死亡することは極めて稀
  • ベンゾジアゼピン系の依存性は、アルコールやタバコ(ニコチン)よりも低い

現在でも病状に応じ、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は使用されていますが、大半の方は乱用されることなく胃使用されています。また、薬も安全に中止できています。

しかし、それでもなお、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬には以下のような注意点が残存しています。

  1. 依存性:長期にわたり使用された場合に身体依存が形成されます。(短時間型>長時間型)
  2. 反跳性不眠など退薬症候:特に超短時間型、短時間型のベンゾジアゼピン系睡眠薬を高用量で長期間使用した後に中断すると、一過性の不眠になったり、不安、焦燥などの心理学的症状、手の震え、動悸、発汗などの身体症状、光や音への過敏性など知覚障害が出現します。
  3. 前向性健忘:過量に服用した場合や、アルコールと併用した場合に、服用後一定期間の健忘(記憶障害)がおきることがあります。
  4. 筋弛緩作用:筋肉を弛緩させる作用によってふらつき転倒の原因になります。睡眠時無呼吸症候群を合併している場合、舌根沈下をまねき無呼吸を悪化させます。
  5. 脱抑制:怒りっぽくなったり、食欲が抑えられなくなるなどが見られる場合があります
  6. 奇異反応:頻度は稀だが、不安や緊張、攻撃性が生じることがあります

2000年代〜 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の登場

ゾルピデム(商品名マイスリー)、ゾピクロン(アモバン)、エスゾピクロン(ルネスタ)など非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が登場しました。これらはベンゾジアゼピン系と同様にGABA受容体に作用して、GABA・ベンゾジアゼピン複合体に作用しますが、受容体サブタイプのうちω1という催眠作用を引き起こす受容体に選択的に作用し、ω2という筋弛緩作用(及び抗不安作用)をもたらす受容体には作用しにくいため、転倒のリスクのある高齢者に用いやすくなりました。

2010年代〜 メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬の登場

・メラトニン受容体作動薬であるラメルテオン(商品名ロゼレム)は、メラトニンという生体内の物質が作用する視交叉上核のMT(メラトニン)受容体に作用し、入眠を促進し(MT1受容体)、体内時計を整えます(MT2受容体)。ベンゾジアゼピン系でみられた鎮静作用や筋弛緩作用、離脱症状がなく、記憶障害を引き起こすこともないため、高齢者や認知症患者にも安全に使用できるようになりました。

・オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサント(商品名ベルソムラ、デエビゴ)は、覚醒維持作用のある生体内の物質オレキシンの作用する受容体に拮抗的に作用することで、覚醒作用をなくし、眠りに導く新しい作用機序の薬で、こちらも筋弛緩作用はなく依存性も極めて少ないです。

これらの薬は「効かない」という人は残念ながらいても、乱用するというケースは皆無といってよいほどいません。

2020年 メラトニン受容体作動性入眠改善薬の登場

メラトニン受容体作動性入眠改善薬であるメラトニン(商品名メラトベル)は生体内の物質のメラトニンそのものであり、MT(メラトニン)受容体に作用することによって、入眠を促進し、体内時計を整えます。生体内にもとからある物質のため、安全性は極めて高いといえます。現在のところ、6〜15歳の神経発達症の方のみに適用となっており、成人の方には処方できませんが、今後成人に適用が広がる可能性は十分にあると考えられます。

以上のように、睡眠薬は日進月歩で進歩していっており、少しずつ安全性も高まりつつあります。

当院ではまずは良い睡眠をとるために、起きているときの生活習慣を整えるように指導させて頂いておりますが、病状に応じ(ご本人ご家族の同意がある場合)睡眠薬も使用しています。

睡眠薬の種類と強さ(作用時間)は?

睡眠薬の作用時間は短いものから長いものまであり、超短時間作用型・短時間作用型・中間作用型・長時間作用型に分類されます。以下にはそれぞれのグループに分類される代表的な睡眠薬の最高血漿中濃度到達時間(以下Tmaxと略)、血漿中濃度消失半減期(t1/2と略)を記載していきます。(実際には、異なる作用機序の睡眠薬の持続時間は単純には比較できません。参考程度にご参照ください。)

超短時間作用型

  • ラメルテオン(商品名ロゼレム)

Tmax:0.75時間 t 1/2:1時間

  • ゾルピデム(商品名マイスリー)

Tmax:0.7〜0.9時間 t 1/2:2時間

  • トリアゾラム(商品名ハルシオン)

Tmax:1.2時間 t 1/2:2〜4時間

  • ゾピクロン(商品名アモバン)

Tmax:1時間 t 1/2:4時間

  • エスゾピクロン(商品名ルネスタ)

Tmax:1時間 t 1/2:5時間(高齢者はTmax:1時間 t 1/2:7時間)

短時間作用型

  • ブロチゾラム(商品名レンドルミン)

Tmax:1.5時間 t 1/2:7時間

  • リルマゼホン(商品名リスミー)

Tmax:3時間 t 1/2:10時間

  • ロルメタゼパム(商品名エバミール)

Tmax:1〜2時間 t 1/2:10時間

  • スボレキサント(商品名ベルソムラ)

Tmax:1〜3時間 t 1/2:10時間

中間作用型

  • フルニトラゼパム(商品名サイレース)

Tmax:1時間 t 1/2:24時間

  • エスタゾラム(商品名ユーロジン)

Tmax:5時間 t 1/2:24時間

  • ニトラゼパム(商品名ベンザリン)

Tmax:1.6時間 t 1/2:28時間

長時間作用型

  • クアゼパム(商品名ドラール)

Tmax:3.4時間 t 1/2:36時間

睡眠薬の減量開始時期は?

そうはいっても、もちろん不必要に睡眠薬をだらだらと飲み続けることは望ましくありません。「一刻も早く睡眠薬をやめたい」という人もいらっしゃると思います。

  • うつ病、双極性障害、統合失調症などの精神疾患の急性期に伴う不眠の場合

原疾患の治療が優先ですから、原疾患の改善がない時には、無理に減量を焦らないようにしましょう。なぜなら原疾患が改善すれば自然と睡眠薬は必要なくなってくるからです。

  • 不眠症に伴う不眠の場合

もちろん症状が改善すれば睡眠薬を減量、中止していく必要がありますが、減量開始の時期は、

  1. 不眠が消失している
  2. 不眠に対する恐怖が消失している

時期であることが必要です。

「眠れなかったらどうしよう」「眠れなかったら翌日不調に違いない」などと不眠への恐怖感が残っているうちは主治医と十分に相談し、無理に減量を開始しないようにしましょう。

睡眠薬のやめ方は?

現代の睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系睡眠薬)は、前述の通り依存性は低くなっているものの、急にやめると治療前よりも眠れなくなる「反跳性不眠」が生じることがあります。急にやめて不眠が悪化することを繰り返すと、怖くてなかなか減らすことに踏み切れなくなります。主治医と相談してから協働して減量を行いましょう。

反跳性不眠を起こしにくい睡眠薬のやめ方は、

  1. 漸減法
  2. 間引き法

の2つの方法があります。

  1. 漸減法は、服用量を1/4ずつ時間をかけて徐々に減らしていく方法です。へらす間隔として、2週間以上の期間をあけることが望ましいとされており、外来診察時に状態を確認してから次の段階に進むことをお勧めします。
  2. 間引き法は、同じ量のまま、隔日に、2日おきに、3日おきに内服するといった具合に、休薬期間を少しずつ伸ばしていく方法です。間引き法は、超短時間作用型、短時間作用型では反跳性不眠を起こしやすいので、中間作用型に置き換えてからしたほうが安全です。

もちろん漸減法と間引き法を組み合わせて減量していくことも可能です。

市販の睡眠薬は効くのか。強いものはあるか。

現在薬局で処方箋なしで購入できる睡眠薬(正確には睡眠改善薬)は抗ヒスタミン薬の催眠作用を利用したもので、多数の種類がありますが、いずれもジフェンヒドラミン50mg程度が含有されており、強さに大差はありません。確かにジフェンヒドラミンをはじめとする抗ヒスタミン薬は、寝つきを改善し、睡眠時間を延ばす作用がありますが、「飲み続けるうちに効かなくなる」耐性が形成されやすい薬剤であるために、病院では抗アレルギー・抗炎症作用を期待し使用することはあっても、睡眠改善薬として使用することは殆どありません。実際、研究では服用開始して4日で、プラセボ(偽薬)と同程度の睡眠になるとの報告があり、数日程度の一過性の不眠に対しては有効ですが長期的な使用にはむいていません。効かないからといって用法以上に内服すると、副作用として幻覚や、せん妄が生じることがあり危険です。また、ヒスタミン受容体遮断作用によって、日中に注意障害、記憶障害など認知機能の低下が生じやすい点にも留意する必要があります。

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