適応障害
適応障害とはどんな病気?
- 適応障害とは、明らかにストレスとなる原因に反応して、ストレスの発端から3か月以内にみられる情緒面や行動面の障害です。ストレスとなる原因については経済的な危機、健康問題、対人関係のトラブルなど様々であり、単一の原因ではなく、複数の原因による場合もあります。時に、進学、昇進、結婚、出産など第三者から見ると喜ばしいイベントである場合もあります。
【適応障害チェック】適応障害の診断について
DSM-5という診断基準では上記以外に、以下の項目を満たす必要があります。
- ①「そのストレス因に不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛」②「社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の重大な障害」の2項目のうち少なくとも1つを満たし、その証拠がある
- 他の精神疾患(うつ病など)の基準を満たさない
- 正常の死別反応(人が亡くなったことによる反応)でない
- ストレスの原因及び結果がなくなれば、6か月以内に症状がなくなる
適応障害の疫学
頻度の高い疾患で、外来でこころの相談に来られる方のうち、5〜20人にひとりは適応障害を主診断としています。
大うつ病性障害など重篤な精神障害への悪化を防ぐために本障害の治療は重要です。
適応障害の治療
(※全ての治療が当院で実施できるわけではありません。まずは受診の上ご相談ください。)
①休養をとるための環境づくりの支援
まずは、うつ病の治療と同様に、ご本人と周囲の人が病気を理解し、十分な休養をとることです。それは簡単なことのようですが、実際には病前性格が責任感の強い性格であったりすると周囲がいくら休めといっても本人が休むことを拒否する場合があります。また経済的な理由や、介護など家族関係の理由から本人が実際に休息をとることが難しい場合もあります。当院では、まず病気についての説明を患者さんとご家族に行い、ご本人が休息をとるためにどのような環境づくりをしていくかを共に考え、アドバイスいたします。症状の重篤さに応じ、医師が診断書を記載して休職(休学)をしていただく場合もあります。通常の治療期間は非常に治療が上手くいった場合でも最低6〜8週間は必要です。(患者さんが復帰を急がれる場合は、患者さんの意向を尊重して対応をしていきますが、病状を鑑みてあまりにも無謀であればお止めする場合があります。)職場(学校)復帰に際しては、患者さんの同意が得られれば職場の健康管理医や人事担当者(子どもの場合は学校教員)と相談して、可能な限り馴らしのステップを踏めるように調整します。経済的な問題や、家族関係の問題を抱えていらっしゃる場合には、本人のみならず家族に対し、医師、精神保健福祉士より様々な医療・福祉サービスの活用を提案いたします。
②支持的精神療法
支持的精神療法は適応障害に対しての精神療法で基本となるものです。適応障害の方は、「新しい環境や原因となった出来事に対応しようと努めたがうまくいかなかった」と挫折感を感じており、実際に診察場面では「何をやってもだめだ」「自分には価値がない」「周りに迷惑をかけている」などと涙ながらに無価値観を訴えられる方がとても多いです。このように失敗した体験に執着して自分で自分を苦しめているような心の状態では、いくら体を休めていても心は十分な心の休養をとれず病気が長引いてしまいます。まずは患者さんの話を否定せずに支持的に傾聴することで、ストレスとなる出来事から受ける障害を最小限にとどめ、患者さんが前向きなエネルギーを取り戻す手助けをしていきます。その上で、患者さんが無力感を克服して自ら問題を解決し、自ら生活のコントロールをしていけるように援助していきます(エンパワーメントする)。
③問題の振り返りをし、ストレスに対する対処法(ストレスコーピング)を協働して考える
患者さんがある程度心のエネルギーを取り戻し、落ち着いて問題を振り返ることができるようになったら、患者さんとともにストレスとなった要因を振り返り、整理した上で、患者さんのストレスに対する対処法(ストレスコーピング)がなぜ無効であったかを考え、有効な対処法を協働して考え、休養中であっても実践可能なものは生活に取り入れて実践していただきます。そして今後再び同様のストレスがあったときにどのように対処するか考えていきます。
③認知行動療法
認知行動療法は人間の感情、情動は認知の影響をうけることから、陥りがちな考え方のパターン(自動思考)に気づいてもらい、認知のあり方に働きかけることによって感情、情動を変化させる精神療法の一方法です。急性期治療に対する有効性も確認されていますが、ホームワーク(宿題)を非常に大切にする治療であり、患者さんに実生活で練習してきてもらったホームワークをもとに面接を進めていきます。実際には、意欲の低下した患者さんには負担が大きいため、反復性のうつ病や適応障害の方が、意欲が十分に改善した段階で、再発・再燃予防の目的で用いられることが有効です。
④薬物療法
適応障害の治療は、十分な休養と、環境の調整、ストレスコーピングスキル(対処法)の獲得であり、薬物療法は補助的なものと考えるべきです。しかしながら、うつ病の診断には至らないまでも抑うつ状態となっていたり、強い不安を訴えられたり、睡眠障害を訴えられる場合には、患者さんの希望に応じて、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などの薬物療法を用いる場合があります。
- 抗うつ薬に関しては、うつ病のページの下部をご参照ください。
- 睡眠薬に関しては、睡眠薬とは【歴史から学ぶ】のページをご参照ください。
適応障害で休職(休学)中の人への接し方
適応障害で仕事を休職したり、学校を休んでいる方への接し方でお悩みの方は多いと思います。まずは急性期においては、ストレスの原因を除去または軽減し、まずはご本人が安全感をもって十分な休養をとれるような環境づくりを手助けしてください。ご本人を叱責したり、批判したりすることは控え、するとしても昼夜逆転など生活リズムが乱れているときに、整えるように軽く助言する程度にしてください。ご本人が話したくなさそうなときは、そっとしておきましょう。ご本人が感情をぶつけて来る場合は、感情の応酬にならないようにし、ご自身が余裕があるときは本人の話を否定せず耳を傾け、つらい気持ちに共感してください。仮に表面上は他責的(周りの環境のせいにするなど)で攻撃的な反応であったしても、それは心が傷ついた結果、こころのバランスを著しく失い、一時的に過剰に防衛的となっているだけであり、ご本人の性格が歪んでいるのではと心配しすぎる必要はありません。周囲の方は、干渉しすぎずにご自身の生活を維持しながら、ご本人を暖かく見守ってあげてください。少し、活動量がふえてきたとか、食欲がでてきたとか、仕事や学校などの話題をするようになったなど、前向きな変化があれば、こころが回復してきた兆候かもしれません。手紙や診察に同行するなどの方法で、主治医に伝えてください。
適応障害で在職(在学)中(または復帰後)の方への接し方
適応障害で在職(在学)中の方、または休職(休学)から復帰後の方への接し方でお悩みのかたもいるでしょう。主治医とご本人が相談して、仕事(通学)の継続ができると判断しているわけですから、病状は少し安定しているのかもしれませんが、まだ病前のような作業パフォーマンスは期待してはいけません。批判的な言動や励ましは控えてください。まだ症状が悪化やすい状態ですから、どの程度の労務(勉強)の負荷までは可能なのか主治医(及び産業医、学校医)に判断を仰ぎ、それを遵守してください。責任の重い仕事や過剰な業務負荷は控え、本人の希望があれば休息をとれる体制を整えてください。お薬の飲み合わせで飲酒できないことがありますので、飲酒の誘いはご本人が断りやすいよう押し付けがましくならない程度にしてください。「大丈夫」という本人の言葉を鵜呑みにせず、雑談などを通してそれとなくご本人の様子を見守ってください。雑談をすることが難しい場合は、ご本人と頻度を相談したうえで、定期的に個別に面談の機会をもうけるのがよいでしょう。もし明らかに本人の様子がおかしいときは、ご本人の同意を得た上で、手紙や診察に同伴するなどして様子を主治医に伝えてください。