こども、大人、高齢者の心理検査
発達および知能検査(子ども、大人)
- 津守式乳幼児発達診断法
適応年齢:1か月〜7歳
津守らによって開発された検査法で、1〜12カ月用、1〜3歳用、3〜7歳用の3種類があり、保護者を対象にした質問用紙に対する回答から、子供達の全般的な日常行動を把握し、各月齢、年齢に応じた行動ができているかどうかを判定します。0〜3歳までは「運動」「探索・操作」「社会」「食事・排泄・生活習慣」「理解・言語」の5つの領域が設定されています。3〜7歳では「運動」「探索」「社会」「生活習慣」「言語」の5つの領域が設定されています。各マイルストーンの通過率は予め60%に設定されているため、全てのマイルストーンが達成されている必要は全くありません。本検査では発達指数(DQ)は算出されません。
- 新版K式発達検査
適応年齢:生後3か月〜成人
1951年に京都市児童院(現在の京都市児童福祉センター)で開発され全国に普及した発達検査です。被験者に課題を与え、それに対する反応を観察します。乳児健診や、特別支援教育でのアセスメント、児童相談所や知的障害者更生施設などにおける療育のためのアセスメントなど、多様な場面で用いられています。被験者の発達年齢(DA)と実際の年齢(CA)の比を発達指数(DQ)としています。発達年齢と発達指数は「姿勢・運動」「認知・適応」「言語・社会」の3つの領域と全領域で算出されます。検査の実施に当たっては、被験者の状況に合わせて順を変更しても良いとされています。
- 田中ビネー式知能検査
適応年齢:2歳以上
1905年フランスのビネーらが開発したビネー式知能検査をもとに、1947年に田中が発表した発達検査で、医療機関の他、教育場面でも用いられています。2〜13歳では精神年齢(MA)と生活年齢(CA)から知能指数( IQ)を算出します。14歳以上の年齢では精神年齢はあまり有用ではないとされており、「結晶性問題」「流動性問題」「記憶問題」「論理推論問題」の4つの領域で、同年齢グループの中でどの程度の発達レベルに位置するかを示す偏差知能指数(DIQ)を算出します。
- WISC- Ⅳ(児童版ウェクスラー式知能検査第4版)
- WAIS-Ⅳ(ウエクスラー式知能検査第4版)
WISC:適応年齢:5〜16歳0か月 WAIS:適応年齢:16歳0か月〜成人
1938年にウェクスラー・ベルビュー知能検査が開発され、その後複数回の改定を経て、1949年に児童版のWISC(Wechsler Intelligence Scale for Children)が、1955年に成人版のWAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)が誕生しました。現在、学童期以降でもっとも標準的に用いられている知能検査です。第4版では、新しいことを学習したり問題を解決したりする流動性知能の評価として、言語理解(VCI)、知覚推理(PRI)、ワーキングメモリー(WMI)、処理速度という4個の指標得点、及び全検査IQ(FSIQ)が示されます。言語理解(VCI)とは、言語概念形成、言語推理、環境から得た知識を測定するもので、言語の発達状態、言語能力、結晶性能力を表す指標です。知覚推理は知覚による推理、流動性推理、空間処理、視覚-運動の統合を、ワーキングメモリーは作動記憶、注意、集中、実行機能などを、処理速度は視覚情報を生活かつ素早く読み込んで処理する力を測定しますが、視覚的短期記憶、注意、視覚-運動の強調も関係するとされています。
- 日本版KABC-Ⅱ
適応年齢:2歳6か月〜18歳11か月
1983年に米国のカウフマン夫妻によって開発された知能検査を、日本に合わせて改訂したものです。認知処理能力と習得度を分けて測定し、「継次処理、同時処理、計画処理、学習処理」という視点から認知過程における処理能力を、それぞれに対応する尺度を用いて計測します。習得度においては「語彙、読み、書き、算数」についてそれぞれに対応する尺度を用いて計測を行う検査で、学習障害(LD)の評価に用いられます。但し、本検査のみで学習障害(LD)と診断をできるわけではなく、正確な診断を希望される場合は、専門の医療機関に紹介させていただきます。当院ではWISC- Ⅳの補助として、「読み尺度」「書き尺度」のみを実施するなどしています。
- 小児自閉症評定尺度(CARS;Childhood Autism Rating Scale)
適応年齢:3歳以上の小児
1980年にショップラーによって開発され、1982年に日本語版の妥当性が検証された自閉症スペクトラム症の特性を評価するための検査です。「社会性・コミュニケーションの障害」「こだわりや興味の限局」という基本症状の他に、感覚面の問題や認知の偏りなどの問題を把握できるという点で有用です。被験者を直接行動観察するか、養育者から聞き取った生育歴や日常生活の様子を元に、評定シートを用いて以下の15項目を評価します。
CARSの検査項目
- 人との関係
- 模倣
- 情緒反応
- 身体の使い方
- 物の扱い方
- 変化への適応
- 視覚による反応
- 聴覚による反応
- 味覚・嗅覚・触覚反応とその使い方
- 恐れや不安
- 言語性コミュニケーション
- 非言語性コミュニケーション
- 活動水準
- 知的機能とバランス
- 全体的な印象
- AQ-J(日本語版)
適応年齢:栗田版は成人、若林版は成人および児童(16歳未満)
英語のBaron-Cohenらにより開発された質問紙法の自閉症スクリーニング検査です。「社会的スキル」「注意の切換え」「細部への注意」「コミュニケーション」「想像力」の5つの下位尺度にそれぞれ10問の設問があります。
- PARS-TR(親面接式自閉症スペクトラム障害評定尺度 テキスト改訂版)
適応年齢:3歳〜成人
保護者に対する聞き取りに基づいて、自閉スペクトラム症(ASD)に関連する診断補助情報の把握、支援ニーズと支援の手がかりをみつけるためのアセスメントツールです。全項目は57項目ありますが、被験者の年齢によって使用される項目が異なります。就学前の幼児は34項目、学童期の小学生は33項目、学童期の中学生以上の子どもと成人は33項目の項目セットが用いられます。これらが各12項目ずつの短縮版を用いる場合もあります。幼児期における症状が最も顕著な時の評定を「幼児期ピーク評定」、検査実施時の症状評定を「現在評定」と呼びます。幼児期ピーク評定によりASDとしての特性の有無と程度を把握し、現在評定により現在の生活環境への適応困難度を把握します。
- CES-D(うつ病自己評価尺度)
適応年齢:15歳〜成人
一般人のうつ病の発見を目的とし、米国国立精神保健研究所(NIMH)によって開発され、世界中で用いられている自記式の質問紙検査です。項目は20問と少ないため簡便に実施できます。特異度、陽性的中率が高いため、うつ病(うつ状態)の確定診断の補助ツールとして有用です。
- STAI(状態−特性不安尺度)
適応年齢:中学生〜成人
状態不安(特定場面で一時的に感じる不安)と特性不安(状況に依存せず普段から感じている不安)を測定する自記式の質問紙検査です。それぞれの不安を評価する項目が各20項目あり4段階で評価します。
人格検査(子ども、大人)
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バウムテスト
適応年齢:絵が描ける全年齢
実のある木の絵を描いてもらう人格検査です。コッホ(1957-2010)によって研究・開発された心理テストで、疾患を判別するツールではなく、被験者のこころの状態を見立てる道具として描かれた絵の解釈を通じて被験者のこころの平衡状態を表すツールとして、日本はじめ世界各国で実施されています。知的・精神的成熟度、パーソナリティーの発達が示されるとされています。例えば、6歳以降では99%が描く木の幹は1本線による幹ではないが、3〜4歳では1本線はしばしば観察される、などと蓄積された統計データをもとに解釈を行っていくものです。もちろん絵にはその時点のこころの状態が現れるため、時々刻々と変化します。解釈される人格も固定したものではありません。
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描画デスト(HTPP法)
適応年齢:幼児以上の全年齢
家と木と人、反対の性の人の4つの課題を描かせる人格検査です。1948年にBuckが考案した方法はHTP法と呼ばれ家と木と人の3つの課題を描かせる方法でしたが、日本では高橋雅春によって「反対の性の人」が追加され、HTPPテストとして、小学校から高校生および少年鑑別所少年を対象にした検討によって標準化されました。
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P-Fスタディ
適応年齢:小学生〜成人
米国のS.ローゼンツァイクによって開発された人格検査です。イラストで、計24種類の日常生活に近い場面が示され、それぞれ主に2人の人物が登場し吹き出しで会話が表現されます。左側の人物がフラストレーションを惹起する会話内容を被験者に提示し、検査を受ける被験者は、各場面の被害者の台詞を自分で自由に考えて、(標準実施法では)解答欄に記入します。書き込まれた台詞を言語反応として11種類の因子(要素)に分類する記号化と呼ばれる作業を経て、分析・解釈される。日本版は児童用(小〜中学生)が1955年に、成人用(15歳〜)が1956年に、青年用(中〜大学生)が1987年に開発された。
- 文章完成テスト(SCT)
適応年齢:小学生〜成人
1961年に慶応義塾大学の佐野勝夫らによって開発された人格検査です。被験者に空欄のある文章を完成させる課題を提示し、どのような文章を完成させるかによって、被験者のパーソナリティ(知的、情意的、指向的、力動的側面)、決定要因(身体的、家庭的、社会的要因)を分析する。
認知機能検査(高齢者)
- 改定長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)
対象者:主に高齢者
MMSEと並んで日本でもっとも頻繁に用いられる認知症のスクリーニング検査です。すべて言語を用いる検査で、見当識、言語性記憶、全般性注意・計算、言語を評価できます。記憶に関する項目がMMSEより多いのが特徴です。一般に20点以下を認知症の疑いとします。当院でも認知症疑いの方にまず行うことが多い検査です。
- MMSE(Mini Mental State Examination)
対象者:主に高齢者
見当識、言語性記憶、全般性注意・計算、言語といずれも言語機能が用いる検査が29点、図形模写が1点の合計30点で評価されます。一般に23点以下を認知症の疑いとします。
- ADAS-Jcog(Alzheimer's Disease Assessment Scale cognitive subscale Japanese version)
対象者:主にアルツハイマー型認知症を疑う高齢者
アルツハイマー型認知症で早期から障害されやすい記憶、視空間認知などを中心として評価でき、アルツハイマー型認知症患者の症状の推移を評価するのに用いられます。
- CDR(Clinical Dementia Rating)
介護者への面接を通じ、認知症の全般的重症度を判定します。具体的には、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域生活、家庭生活、介護状況の6項目を評価します。
- PSMS(Physical Self-Maintenance Scale)
介護者が認知症者の生活障害を評価します。評価項目として、基本的ADL(日常生活動作)6項目「排泄、食事、着替え、見繕い、移動能力、入浴」、道具使用のADL(IADL)8項目「電話、買物、食事の支度、家事、洗濯、移動・外出、服薬管理、金銭管理」があります。
- NPI(Neuropsychiatric Inventory)
対象者:主に認知症者(の家族)
介護者への面接を通じて、認知症者でよく認められる行動異常や精神症状を評価します。通常は10項目の精神症状(妄想、幻覚、興奮、うつ、不安、多幸、無関心、脱抑制、易怒性、異常行動)の有無、頻度、重症度の有無、頻度、重症度を評価するもので、最近は夜間行動、食行動の2項目を追加した12項目版がよく用いられます。